INTRODUCTION

 宇宙から届いたコールサインが、キューバで暮らす大学教授のセルジオと宇宙ステーション「ミール」滞在中の宇宙飛行士セルゲイを引き寄せた。孤独と将来の不安を抱える2人は途切れがちな無線で交信するうちに、国境も身分も大気圏も越えて親友になる。しかし、1991年12月、セルゲイの母国ソビエト連邦が崩壊したことから事態は急展開、セルゲイは帰還無期限延長を宣告されてしまう。家族を心配する親友を救おうと、セルジオは世紀の一大プロジェクトを思いつく。無線仲間のピーターの協力もあり計画は順調に進むが、しかし、それはセルジオの立場を危うくする危険な賭けだった。

 物語のモデルとなったのは、実在する元宇宙飛行士で“最後のソビエト連邦国民”と呼ばれたセルゲイ・クリカレフ。政変の煽りを食らい地球帰還が何度も延期され、最終的に敵対していたアメリカのスペースシャトルで新生ロシアに帰還した人物だ。そんな冷戦終結直後に起きた奇跡のような出来事を、ソ連の友好国キューバで“まさか!”をちりばめてファンタジックにアレンジ。無線仲間の宇宙飛行士を救出するため、国境も宇宙も政治も飛び越えた異色のバディ・コメディは、第7回パナマ国際映画祭で観客賞を受賞したほか、正式出品されたトロント国際映画祭などで喝采を浴びた。

 エリート共産主義者のセルジオを演じるのは、キューバで活躍するトマス・カオ。14年にアカデミー賞外国語映画賞キューバ代表作となった『ビヘイビア』(SKIPシティ国際Dcinema映画祭2015長編グランプリ作)に出演しており、本作が日本公開2作目となる。家族思いのソ連人宇宙飛行士セルゲイ役には、同じくキューバ人俳優のヘクター・ノアが。そして、NYに暮らす謎の無線愛好家、ピーターには、ギレルモ・デル・トロ監督作の常連、ロン・パールマン。14年に彼が設立した独立系映画制作会社“Wing and A Prayer Pictures”が本作の共同制作に関わっている。

 奇想天外なファンタジーを執筆、演出したのは、キューバが誇る映画監督エルネスト・ダラナス・セラー。『Fallen Gods(原題)』(08)と『ビヘイビア』(14)の2作がアカデミー賞外国語映画賞に選出され、海外の映画祭で賞を獲得する俊英だ。本作の舞台である91年頃は監督もセルジオ同様に経済危機に直面し、秘密の蒸留酒製造所で子供のミルク代を稼いだという。最近になって、セルゲイの宇宙滞在が延長された真の理由を知り、歴史に翻弄された2人の運命を交錯させるコメディを書き上げた。

 激動する運命をほんのひととき忘れ、無邪気に語り合うセルジオとセルゲイ。貧しいながらも夢と笑顔があったあの頃を思い出させるハートフル・コメディが、小さな映画王国キューバからやって来た!

STORY

 1991年。ベルリンの壁崩壊から始まった社会主義陣営崩壊の波は、本家のソビエト連邦にも達しつつあった。その余波はソ連の友好国であるキューバ共和国を直撃し、国民は深刻な経済危機に苦しんでいた。モスクワの大学でマルクス主義哲学を修め、大学で教鞭を執るエリート共産主義者のセルジオ(トマス・カオ)ですら、幼い1人娘のマリアナと母の食費に事欠く有様だ。アマチュア無線愛好家の彼はキューバでは報道されない不都合な情報をNYの無線仲間ピーター(ロン・パールマン)から教えてもらい、生き残る道を探っている。

 ソ連の激動に翻弄される男は、宇宙にもいた。ソ連が誇る国際宇宙ステーション「ミール」に長期滞在中の宇宙飛行士セルゲイ(ヘクター・ノア)だ。母国の政変のために帰還無期限延長を宣告され、事情を知らない国民は彼が宇宙連続滞在日数の世界記録(当時)を更新する!と大騒ぎしている。蚊帳の外に置かれたセルゲイは孤独を紛らわすように無線で青い地球に語りかけていた。

「CQ CQDX こちらU5MIR」
 聞こえるのは雑音だけだった。
 セルジオの苦境を心配したピーターから、最新式無線機のサプライズギフトが届く。初めて声で交信する2人は会話が止まらず、深夜まで雑談にふける。翌日、つけっぱなしだった無線機から雑音混じりのコールが流れてきた。セルジオが「こちらはCM2CU」と答えると、「CQ CQDX こちらU5MIR」の声が。交信は短時間だったが、セルジオは宇宙飛行士と会話できた!と大興奮。セルゲイもロシア語で雑談を交わせるセルジオとの交信につかの間の安らぎを得るのだった。セルジオは早速ピーターに快挙を伝えるが、ピーターは手間のかかるモールス信号では明かせなかった家族の事情に苦しんでいた。

 いつ途切れてもおかしくない電波を受信して、夜な夜な語り合うセルジオとセルゲイ。ふたりはいつしか国境も身分も大気圏すら越えて親友になっていた。12月、ソ連は崩壊してロシアとなり、政局も国民も混乱状態に陥る。不安を訴える家族の元へ早く帰りたいと願うセルゲイのために、セルジオは世紀の一大プロジェクトを思いつく。かつて熾烈な冷戦を繰り広げたアメリカをセルゲイ救出作戦に巻き込もうというのだ。果たしてかつての超大国は団結できるのか!?

about SERGEI KRIKALYOV

セルゲイのモデルとなった“最後のソビエト連邦国民”
宇宙飛行士セルゲイ・クリカレフとは?

1958年8月27日生まれ、ロシア・サンクトペテルブルグ出身。趣味は水泳、スキー・サイクリング、アマチュア無線と多才。コールサインはU5MIRとX75M1K。曲芸飛行パイロットとして国内チャンピオンになったこともある。
81年にセントペテルスブルグ技術大学を卒業。85年に宇宙飛行士に選抜され、88年11月26日に初の宇宙飛行に参加し、翌年4月27日に帰還。映画のモデルとなったのは彼にとって2度目の宇宙飛行に参加したときのこと。6回の宇宙遊泳と、ミールの修理を担当するために91年5月19日から同年10月までの予定で宇宙へ向かうが、後任の宇宙飛行士が削減され、ソ連崩壊などの問題が発生し帰還が無期延長される。ロシア人として初めてスペースシャトルに搭乗し、92年3月25日、地球に帰還する。実際にはセルゲイは途中から乗り込んだ機長のアレクサンドル・ヴォルコフと2人で長期滞在していた。2005年10月には国際宇宙ステーション滞在中、クリカレフ主演で「日清カップヌードルのCM」が撮影され、同年11月から「NO BORDER」のキャッチコピーと共に彼の姿がお茶の間に流れた。引退時の総宇宙滞在時間は803日9時間39分。

cast

TOMÁS CAO
トマス・カオ(セルジオ役)
キューバ出身の俳優。2005年、ベニト・サンブラノ監督の『Habana Blues(英題)』でデビューし、同作でミュージカルナンバーも歌う。国内外の短編映画や、Tempo HavanaやHavana 50製作のミュージカルにも出演。2009年には、キューバのTVドラマ『Los arêtes que le faltan a la Luna(原題)』でアドルフォ・ジャウラード演技賞を受賞。長編映画のおもな出演作は、『El cuerno de la abundancia(英題:Horn of Plenty)』(2008)、『La anunciación』(2008)、『Larga distancia(英題:Long Distance)』(2010)、『Penumbras(英題:Shadows)』(2012)、『La película de Ana(英題:Ana’s Film)』(2012)、『ビヘイビア』(2014)、プラティーノ賞イベロアメリカ映画賞にノミネートされた『La emboscada(英題:The Ambush)』(2015)、『Fátima o el parque de la fraternidad(原題)』(2015)、『 Viva(原題)』 (2016)など。
HECTOR NOAS
ヘクター・ノア(セルゲイ役)
キューバのエンターテインメント界で、最も高い評価を得ている著名な俳優の1人。映画、TV、舞台と幅広く活躍し、海外の作品にも出演。出演作は100本以上にのぼる。2009年、エルネスト・ダラナス監督の『Los Dioses Rotos(英題:Fallen Gods)』でカリカト賞を受賞。2012年にはエンリケ・ピネダ・バルネ監督の『Verde(英題:Green Green)』で、ブラジルのセアラ・レインボー映画祭最優秀映画俳優賞を受賞。2015年にはロシアのアントン・チェーホフ作、カルロス・セルドラン演出の『ワーニャ伯父さん』のミハイル・アーストロフ役で、カリカト賞最優秀主演男優賞(舞台)を受賞。俳優業の傍ら、ガリシア映画学校で講師を務め、演技や演技指導のワークショップを行っている。
RON PERLMAN
ロン・パールマン(ピーター役)
40年にわたり、映画、TV、舞台と幅広く活躍を続け、受賞歴も誇る俳優。舞台でキャリアをスタートし、ベケット、ピンター、イプセン、マーロー、チェーホフ、シェイクスピアなどの作品に出演し、演技を磨く。 映画デビューはジャン=ジャック・アノー監督の『人類創世』で、同監督の『薔薇の名前』と『スターリングラード』にも出演し、キャリアを確立する。80年代後半にはTVシリーズ『美女と野獣』に出演し、批評家から高い評価を得る。 90年代からギレルモ・デル・トロ監督作品に出演し、数々の秀作を生み出す。初めてタッグを組んだのは『クロノス』で、カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリを受賞。次の『ブレイド2』が大ヒットし、今作の怪演により、『ヘルボーイ』の主役に大抜擢され、ハマり役となる。その後も大ヒット作『パシフィック・リム』、『ブック・オブ・ライフ ~マノロの数奇な冒険~』でタッグを組んでいる。 FXのTVシリーズで、カート・サッターが企画と製作総指揮を務めるバイオレンス・ドラマ『サン・オブ・アナーキー』に、6年にわたって出演。2015年には『ムーン・ウォーカーズ』で主役を務める。最新作はインディペンデント系のドラマ『ポッターズビルの奇跡』、近作は『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』。また近年、自伝『Easy Street(The Hard Way)』をマイケル・ラーゴと共同で執筆し、Da Capo Pressより出版。 2014年にはインディペンデント映画の製作会社Wing and A Prayer Picturesを設立。同社はマーク・フォースター監督の『All I See Is You(原題)』をはじめ、数々の個性的な作品を生み出している。『All Nighter(原題)』を共同製作、前述の『ポッターズビルの奇跡』を製作。さらにアクション・ドラマ『Asher(原題)』をはじめとする4作を製作予定。 同社は『Sergio and Sergei』の共同製作も務め、本作への貢献を名誉に感じている。

STAFF

ERNESTO DARANAS SERRANO
エルネスト・ダラナス・セラーノ(監督・脚本)
1961年、ハバナ生まれ。監督・脚本を務めた作品は、いずれも高い評価を得ている。『Los últimos gaiteros de La Habana(原題)』(2004)でスペイン国王国際ジャーナリズム賞を受賞。『Fallen Gods(英題)』(2008)はアカデミー賞外国語映画賞の出品作に選ばれ、複数の海外の映画祭で賞を獲得。『Bluechacha(原題)』(2012)はラテン・グラミー賞の最長人気ミュージックビデオ賞にノミネートされる。『ビヘイビア』(2014)は二度目のアカデミー賞外国語映画賞の出品作となり、アメリカ、アジア、ヨーロッパの映画祭で50以上の賞を獲得。
DIRECTOR'S MESSAGE
エルネスト・ダラナス・セラーノ監督からのメッセージ
1992年。経済的に依存していた社会主義圏が崩壊し、キューバは終わりの見えない経済危機に陥り、われわれ国民の生活は一変しました。『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』はこのように劇的な時代を背景とした風刺作品でありながらも、語り口はノスタルジックです。それは、この当時は私にとって幸せな時期だったからです。ちょうどこの時期に、私たち夫婦は次々と子宝に恵まれたのです。なんという〝絶好のタイミング〟でしょう! 私はせっせと舞台の台本を書き、毎月100本以上は書き上げました。それでも、増えていく家族を養っていくには、収入が足りません。いくつか他の仕事もやってみたものの、どれもうまくいかず、結局は自宅に秘密の蒸留酒製造所をつくって、〝文筆業〟の副業とするしか手立てがありませんでした。

ですから、セルジオは私にとって、非常に身近な人間です。マルクス主義の博士号を持っていても(モスクワに留学して取得)、子どもたちを養ってはいけないという現実に、突然セルジオは直面します。あの苦難の時代に私が強いられた辛苦を、セルジオも強いられるのです。私はあの頃の自分の生活をセルジオのストーリーを通して語り、われわれ国民が、キューバ現代史における最も過酷な時代を生き抜くために必死で編み出した、奇抜で無謀な秘密の方法をお見せしたかったのです。

私がセルゲイを知ったのは、キューバのテレビの番組紹介でした。セルゲイは、宇宙から帰還すると祖国はロシアに変わっていたというエピソードとともに、滅びゆくソ連の最後のヒーローとして紹介されていました。私がセルゲイの宇宙滞在が延長された真の理由を知ったのは、それから何年もあとのことです。セルゲイもセルジオと同様に、歴史に翻弄されていたのです。私はこの2人の運命を交錯させてはどうかと考え、そうする意義はあると感じました。
セルジオは空を見上げ、ミール宇宙ステーションに缶詰めになっているセルゲイのことを考えます。実際に会ったことはない友だちを、一体どうすれば宇宙ステーションから帰還させることができるのだろうと頭をしぼります。一方セルゲイは、宇宙ステーションの窓から外をながめ、故郷の惑星に思いを馳せます。宇宙連続滞在日数の世界記録を打ち立てたヒーローではなく、ただ1人の男として地球に戻り、妻と子どもたちを抱きしめたいだけなのです。

冷戦の終わりに、突然逆境に立たされた2人の男が空間を超えて出会い、人生が交錯していく。『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』は、そんな現実にはありえないような出来事を描いたコメディです。特殊効果をふんだんに使った超現実的な映画が大量に作られている今、違ったアプローチの作品を作る価値はあると思います。私が宇宙に強く惹かれているのは、宇宙は私にとって、デジタルなものではなく、人間的なものだからです。ミール宇宙ステーションには、華やかさはまったくありません。同様にわれわれの生活にも華やかさはなく、不寛容と独断と貧困があるだけです。そんな中で一体どうすれば、自分の周囲に美しさをみつけることができるのでしょう? 一体なぜ、国や民族としてのアイデンティティを再発見できるのではないかと、私たちは希望を抱きつづけているのでしょう? これらの質問の答えを、私はこの映画で示したいのです。